経営者インタビュー

働く人が、自らの働き方を選べる世の中にしたい。
そのために何が必要なのか。自分にできることは何かを考え、チャレンジし続けている。


更新日時:2015年07月

[ヒューコムエンジニアリング企業紹介]

スタッフが安心して働ける『普通の会社』をつくりたいという思いからスタート。『普通の会社』とは、労働者の権利を守りながら利潤を生みだす会社、ということ。そして最も大切にしていること、それは『ひとづくり』。各種免許や資格取得によりスキルアップを図り、質の高い「ものづくりサービス」を提供できるようにしている。

軽い気持ちで入った人材ビジネス業界
現場で働くうちに人材ビジネスの世界に魅了されていった

高校卒業する時に私の父の勤めている会社が倒産しました。勉強が好きではなかったというのもあるのですが(笑)、大学行くよりも手に職ということで調理師になりましたが、私が20歳ちょっと過ぎの頃、色々な仕事を経て父が山梨に戻り、業務請負の会社を立ち上げました。それを機に、私も父の手伝いをすることになったのが人材業界に入ったきっかけです。当時は本当に軽い気持ちでした。当時の現場の方々というのは正社員でない方々が非常に多かったのですが、少々特殊な事情の方々が多く、そのような人たちと共に現場で働いたり、一緒に話をしていくなかで、この仕事の魅力を感じるようになっていきました。

そして、2003年に派遣法が改正(*1)され、製造業における派遣が可能になったのですが、私はこの派遣法改正をきっかけにこの業界が変わっていくだろうと思いました。この機会に私自身の会社、「ヒューコムエンジニアリング」を立ち上げました。それまでも製造業において構内請負業を事業としていましたが、この派遣法改正が大転換になるのでは・・と思い、それに対応できるよう会社づくりをしていこうと思いました。

 

(*1)2003年に派遣法が改正され、派遣対象業務が拡大。2004年から「物の製造の業務を適用対象とし、一定期間、1年間の派遣期間制限を適用」となった。

リーマンショック後の世界的な経済危機は、山梨の小さな会社を大きく揺さぶった
「全ての仕事がなくなる」という状況は、これまでに経験したことのない程の落ち込み

創業以来そこそこに順調にやってきましたが、一番しんどかったのはリーマンショック後の世界的な経済危機でした。

20数年この業界におりますので、リーマンショック以前に起こった90年代のバブル崩壊も、その後のITバブル崩壊も経験し、それなりに経験を積んできたつもりでしたが、リーマンショックの時は、「全ての仕事がなくなる」という本当に鉈で切られるような状況の中で、経営的にも今までに経験したことのないような危機を迎えたような状況でした。

以前のバブル崩壊やITバブル崩壊の時には、「車がダメ」でも「食品や電気がある」という感じで、多少なりとも振り幅があったのです。しかし、リーマンショックの時は全てシャットダウンされるという感じでした。当社は山梨という小さなエリアでやっていますので、本当にかなり大変でした。

さらに我々の業界にとって大きな出来事は、派遣に対するイメージの悪化でした。派遣に関する様々な報道もあり、派遣を使うことに対しての抵抗を感じる派遣先さんも増えていきました。「凹むのも早いが、立ち直るのも早い」というのが我々の業界の特徴なのですが、なかなか回復しないという状況が続いたことが、我々のダメージを大きくしました。

派遣で働くことは、そんなに悪いことなのか?
バッシングを受けるその現状がとても悔しくて、「何か伝えていかなくては、この方達の思いに応えることはできない。何か発信しないと!」と、個人のブログを開設

うちのスタッフが正月に帰省した時に、「大丈夫か?」「派遣なんかで働いていていいのか?」と言われたと聞いて、なんでここまで言われなきゃいけないのだと思いました。本人達は、ちゃんと目的を持ってやっていますし、やりがいも持ってやっているのに、そこまで言われている現状が、非常に悔しくて、何か伝えていかなくては、この方達の思いに応えることはできないと思いました。当時、バッシングに近いことを色々と受けていましたので、我々も何か発信しなくてはいけないのではないかと思い、個人のブログを匿名で開設しました。とにかく、何かはじめないと、何か発信しないと我々は変わっていけないと思っていましたので、まずは自分からやろうと思い、「一日ひとつ何かを書く」と決めてやり続けたのです。

1年近く匿名でブログをやっていましたが、嬉しい意見よりもバッシング的な意見の方が多くて、非常に痛い言葉を投げられました。いいところもあるし、悪いところもある業界なので、それを両方認めながらどちらの側からも発信するということを心がけてやっていました。いい意見はいい意見で頂きましたし、悪い意見は悪い意見で頂きました。それが偏見によるところも非常に多かったということもありますが、それでも、業界の真実というのを語っていかないと、それを誰かがやらなければいけない事だと信じ、ならば私がやろうと思ってやっていました。それがきっかけで本を出させて頂くことになり、それからはブログも実名で書いています。今回、2冊目となる新書「派遣新時代」を上程させて頂きましたが、こちらは、業界外の方や業界に入ったばかりの方に、派遣法の改正内容やその歴史、業界の真の姿を知って頂きたく、なるべくわかりやすい言葉で書きました。ぜひ、お読み頂ければと思います。

また技能協を通じて業界活動にも携わることに広がっていきました。

誤解されるなりの事をやってきた業界でもある
それを認めた上で、正しい方向に向かって欲しい

徐々にではあるものの、分かって頂ける方も出てきましたし、ツィートでフォローして下さっている方もいます。少なからずとも読んでいらっしゃる方が増えていくこと自体が、発信力にはなっていると思いますし、同じような意見を持っていらっしゃる方もちらほらと出てきています。その方々が私と同じように発信して下さることが増えていますので、少しでも業界の真実の姿を見て頂ければいいなと思っています。そういう方々に私の意見を受け取って貰えている事がやりがいにもなりますし、ひとつひとつ業界の誤解を解くことになるかなと思います。

 

誤解の多い、誤解されている業界ではありますけども、誤解されるなりの事をしてきた業界でもあると思っています。それを認めた上で正しい方向に流れていかなくてはいけないですし、健全化する為にも自分自身が身を切ってやっていかなくてはと思っています。

業界自体は、これまでやってきた事を踏まえて、まだまだこれから禊をしていかなくてはいけないなと思っています。

働く人たちが「自分の働き方を選べる」ことの基盤となることが業界に課せられた使命
そのためには、我々の業界が健全化し、分かりやすくなっていくことが重要

ユーザー(クライアント)さんからは、我々にとってコスト的に無理なマイナスのオーダーばかりがきます。当社は、そのようなオーダーをお断りしています。もちろん、オーダーを取らないという事を決断することは我々としては大変なことです。当然のように取引先も少ないですし、営業に回ってもなかなか成約に結びつかないですね。しかし、働くスタッフのことを思えば、そのような無理なオーダーは受けられません。

どんなオーダーでも取ってきてしまう会社さんも多いのですが、そういうところが伸びるような業界であってはダメだと思うのです。やはり、正直者が損をするような業界ではいけないと思いますし、しっかりと掻いた汗が経営に活きてくる業界にしなくてはならないと思っています。

一方で、働く方々からの観点からみると、労働者の方々の就業意識は千差万別あって、実は正社員になりたいというのは全体の半分くらい。後の半分の方達は、非正規を希望する方もいます。その中でどういう待遇をとっていくかが重要になってきます。

現在審議中の派遣法改正案には、我々を通じて働きたい働き方に進んで頂けるようなエグジット部分が盛り込まれています。仮に新卒の時に就職を失敗しても、我々を使い倒して頂くことによって、「自分の働き方を選ぶ事ができる」ということが制度的にも可能になります。人材ビジネスにおける派遣という制度が変わるきっかけになると思います。

いづれにしても、より業界を健全化していかなくてはなりませんし、まずは我々がステッピングストーンとして機能いけるようになることが業界に課せられた使命であり、社会的な責任だなと思っています。

やりたいことが決まっていない方達のステッピングストーンに我々がなって、
「何かやりたい」と思った時に、やれる環境を作っておいておきたい

私どもの業界は、キャリアについての考えが決まっていない方達も結構います。やりたことが他にあって来ている方達もいますが、やりたいことを決められていない方達も結構います。その方達が「何かやりたい」と思った時に、やれる環境を作っておくという事が非常に大事だなと思っています。現場で必要な色々な能力や資格を身に付けるなかで、いざ、本人がやりたい事ができた時に、そちら側に導いていけるように私どもがステッピングストーンのようになって、色々な方向性を選択できるような環境を作れればと思っています。

当社は山梨の小さな会社ですので人を集める能力がありません。よく業界外の方から「使い捨て」的なことを言われるのですが、私どもは「人が辞めない会社」にしようとやっています。辞めないためには、本人のモチベーションが上がる環境を準備しないといけないと考えています。

様々な方達がいますが、ある意味、彼らって、何かモチベーションに飢えているところがあります。なので、きっかけさえあれば、成長したり、目が輝いたりという方達が沢山います。だからこそ、彼らとしっかり話し合いを重ねていくことが我々のビジネスの原点になるのかなと感じます。

仕事にやりがいを感じた瞬間、人の目の輝きは変わる
その瞬間に立ち会えることこそが、人材ビジネスに携わることの醍醐味

当社もそうですけど、当社以外も、就職や仕事についてよく知らないで来る方が多いです。それこそ、朝起きることもままならない方達も多いです。そんな方達も、朝起きて仕事に行って、仕事を頑張っているなかで「仕事をするという事」に関してやりがいを持った時に、目が変わってくるんですよね。我々の業界にいる方の多くは、その「目が変わる瞬間」が好きでやっている方が本当に多いと思います。そんなふうに仕事にやりがいを感じて「目が輝く瞬間」に立ち会えることが励みになりますし、そういう時にこの仕事の喜びを最も感じて、なかなか人材ビジネスからは抜けられないだろうなと思います。

我々の業界は間違いなく「必要とされている業界」
自分達で「日本の雇用を変えていけるんだ」と信じて、仕事に取り組んで欲しい

色々なことを言われている業界ではありますけども、まず間違いなくこの業界は必要とされている業界だと思いますし、今回の派遣法改正案が成立すれば、尚更業界としての必要性は高まっていくと思います。社会的責任も大きくなっていきますし、やりがいも増えていくと思います。

我々が「日本の雇用を変えていくんだ」というくらいの大きな心構えが更に必要になりますので、それを通じて日本の雇用の在り方というものを、我々が動かしていけるんだと頭の中におきながら、是非仕事をして頂ければなと思っています。

 

業界内の人間で集まる機会が実は結構あります。そういうものに参加してみると、同じようなことで悩んでいる仲間がいます。そんな悩みを共有することによって、気が楽になることもあると思います。私も色々なところに参加していますが、色々なムーブメントが起こっているけれど、業界内に点在している状態なんですね。ムーブメントが繋がっていないので、私はそれを繋ぐことをしていきたいと思っています。繋がっていくことによって一体感も生まれてきますし、働く皆さんの次のモチベーションになっていけば非常にいいなと思っています。JHRもそうですが、まずは業界内を横串指して、ひとつひとつ分かりやすい業界になっていくという事がやる気に繋がっていくのではと思っています。

出井智将(デイ トモマサ)

ヒューコムエンジニアリング株式会社 代表取締役社長

2000年 ヒューコムエンジニアリング株式会社設立

地元山梨県内で、製造業への人材派遣や製造請負業務、コンサルティングを行いながら、(一般社団法人)日本生産技能労務協会の理事として活動

同インタビューは、異なる視点でパートナーメディアにも掲載されています。
2015年8月29日発行 「PORTERS MAGAZINE
2015年8月1日発行 「月刊人材ビジネス